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金融専門誌「J-MONEY」10月号に当組合理事長のコラムが掲載されました。

金融界、今は昔 
─公器・金融機関の役割は続く─

東京証券信用組合 理事長 八尾和夫

東京証券信用組合
理事長

八尾和夫

 昭和50(1975)年に日本銀行に入行して以来、平成の時代を超え45年間金融の仕事に携わってきた。就職活動を行っていたのは第一次オイルショック直後で、長らく続いた高度成長期が終焉を迎えつつある時期であった。それでも産業界がその大きな波に呑み込まれていく中で、金融機関だけは好不況に関わらない安定的な業種であるとして学生の人気が高く、当時、母校の経済学部でも就職希望者の半数以上は銀行はじめ広く金融界に就職した。
 護送船団方式華やかなりし頃、「金融機関の経営は3つの単語を発していればできる。『前例は?』『当局は?』『他行は?』だ」など、金融機関をする記事を目にしたのを覚えている。ところが、時代は変わりまさに今は昔。金融機関は構造不況業種の代表のように言われ、変わり身の早い大学生の就職人気も急落している。

顧客の証券界の発展に努めその結果としての収益確保

 超低金利の下でも資金需要は盛り上がらず、貸し手と借り手の立場は逆転した。だからと言って、経済構造の変化を無視した貸し込み競争が何をもたらすかは平成時代の相次ぐ金融機関破綻の歴史が証明している。昨今の無理な不動産向け貸出の結果も同様だ。当信用組合でも、「自らが生き残りのために何をなすべきか」を出発点とするのではなく、顧客である証券界の発展のために何ができるかを第一に考え、その結果としての収益確保、事業継続の実現であることを平素の業務運営において肝に銘じている。
 金融機関は昨今、デジタル化の進展や異業種参入への対応という大きな課題に直面している。この面で日本は国際的に対応が遅れているとも言われるが、これは、世界に冠たるATMネットワークの存在と裏腹の関係にある。発想の大転換は必要だが、同時にこれまでの貴重な体験や蓄積を活かさない手はない。
 高機能ATMを支えてきたのは、信頼できるお札の円滑な流通と、安心・簡便に振込や送金ができる強固なコンピュータネットワークの両輪だ。かつて手作業で行われていた日銀の鑑査という業務は、長い年月をかけ英知を集めた開発を経て、現在ではお札の枚数を数えるにとどまらず、偽札や汚れ度合のチェック、さらにはお札の廃棄に至るまで完全に自動化されている。お札に対する信頼が薄いことがキャッシュレス化進展の大きな動機付けとなっている中国との大きな違いだ。金融機関のコンピュータセンターの地下に、万々一の停電に備え蓄電池群が整然と並んでいる姿はある意味壮観だ。そんなコスト負担をしても、金融機関は現金書留より安い手数料での送金に応じている。

金融政策は、日本銀行と民間金融機関の共同事業

 金融機関は、民間企業体であると同時に金融仲介機能と決済システムの提供という社会の公器としての二面性を有する重い任務を負ってきた。最近では、地域経済振興のためにと政策金融の一環を担うかのような任務も求められつつある。こうした難しい任務を可能にしてきたのは合理的な収益確保という前提があったからだ。
 しかし、それも今は昔。最近の金融機関は構造問題に加え、超低金利とくにマイナス金利政策以降、自らの力がなかなか及ばない要因により収益悪化に苦しんでいる。金融政策は行政権限に基づく金融行政とは異なり、マーケットにおける金融機関の行動を通じてその効果を発揮するものである。金融政策は日銀だけで成り立つものではなく、民間金融機関との共同行為、共同事業だ。その金融機関が、今、日銀の金融政策により疲弊していくのを見るのは何とも辛く、切ない。
 金融政策だけで一国の経済を左右できるとの考え方は、少なくとも昨今の経済環境の中では誤っていることが、ここ数年の壮大な社会実験の結果証明された。今後は、進むも退くも困難が待ち受ける中、正常化へ向けての日銀の適切な舵取りを得て、金融機関がその社会的機能を一段と発揮していくことを願ってやまない。